ぽてかなの私見

「記憶は薄れるから、記録しておくんだよ」「記憶なんて生きるジャマだぜ」

三者三葉を三話まで見ました

 この記事はネタバレを含みます。それをご了承の上で御覧ください。

 

 

 

 こんにちは。ぽてかなです。

 今回は2016年春アニメにして、動画工房の期待の新作「三者三葉」1~3話の雑感です。先日公開した「はいふり」雑感と同じで、この記事もベースライン――すなわち私の「三者三葉」鑑賞の原点として扱います。

 さて、前置きはここまでにして、本題に入りましょう。

 ……と言いつつ、早速横道に逸れますが、皆さんは葵せきな先生の「生徒会の一存*1」というラノベをご存知でしょうか。1巻の初版刊行が8年前なので、既読者でも内容を忘れている方が多いかもしれませんね。というか、もう8年前ですよ。先生の前作「マテリアルゴースト」に至っては10年前です。そして2年後には生存が「10年前」になっている訳です。この「10年前」が迫ってくる感覚……恐ろしいですね。何が恐ろしいのか考察しはじめたら、本格的に読者諸氏がブラウザバックしてしまいそうなので、ここでは控えますが。

 で、なぜ唐突に生存を引き合いに出したかと言うと、お察しの通り、私が「三者三葉」を拝見したときに真っ先に想起したのが、この作品だったからです*2。生存ほど「三者三葉」の副読本として有用な作品はないだろう、と思ってしまうぐらい。その理由は後ほど説明します。

 生存の基本的な構造は至ってシンプルです。多かれ少なかれ変動しますけどね。

1、会長の受け売り名言でスタート

2、生徒会役員の駄弁りor活動

3、終盤で「いい話」に

4、それを台無しにするギャグオチ(照れ隠しとも言う)

 1や2が3の伏線になっているパターンが大半です。何でもないギャグに誰かしらへの気遣いや愛情が込められています。3の段階でしれっと種明かしされて、読者はハッと気付かされるという寸法です。

 ここまで言えばピンと来る方も多いはず。そうです。「三者三葉」も生存と同じように、人間関係の機微をギャグでカモフラージュしながら描いた作品です。"主役"はギャグだけど、"主軸"は心の交錯にあります。2話と3話は特にそれが顕著ですね。葉山光や園部篠の家族愛には胸が温かくなりました。

 しかし、同じ点があれば、違う点もあります。

 まず「三者三葉」の方は愛情の矢印が一方通行気味なんですよね。今のところ葉子、照、双葉*3は毎回、受け手側に回っています。今後は三葉からのアプローチも欲しいです。

 無論、行動が伴わないだけで"想い"は十分に描かれていると思いますよ*4。照が消え入りそうな声で「ありがとう」と口にするシーンなんて最高ですね。そこでお姉ちゃんが「ええ、何だって?」と某難聴主人公ばりに聞き返さないのもグッドです。大事なのは相手に聞こえるかではなく、照が感謝しているという事実のみ。電車の音に隠れるように言ったのは照の照れ隠しでしょう。私はそう思っています。そしていずれ照の方から光に情愛を向けるエピソードが不意打ちで挟まれたら……私としては本作を名作認定するのも吝かではありません。

 その点、生存は双方向のアプローチを一息で描くために、キャラの知性を高めるという手法が取られています。生存の登場人物は皆、普段の会話から数手先を読むような人間ばかりです。故に誰かの気遣いや空気を敏感に感じ取って然り気なく応えると、他の誰かがそれに気付いて微笑む……という”察し”の連鎖が発生します。その上で「本人の前では気付かないフリをする」という選択肢が取られるケースも珍しくない。そこまで敏いくせに、やっていることは馬鹿丸出し――この矛盾が生存の魅力です*5

 「三者三葉」のキャラは、さすがにここまで機転の利く人達ではないですね。だから、例えば上述のイベントでも、照はとうの昔から光の気遣いには気付いていて、ふとした拍子に感謝を伝えてみる*6も、それに対する光の返しがまた数枚上手*7で、照は「やっぱりお姉ちゃんには敵わないなぁ」と呆れつつもどこか満足気に笑うのであった……みたいな生存っぽい展開にはなりません。それはそれで個人的には見てみたい気もしますが、しかし、アプローチの矢印をエピソードごとに区切る方が、人間関係の変化が分かりやすいという見方もできます。特にアニメという限られた尺でやるならば尚更、双方向を一気に描くのは得策ではありません。1話毎の情報量が増えてしまうので、それを裁くのに手一杯で他の要素が疎かになりかねない*8。「え、何だって?」が無いのも一方通行の賜物かもしれませんね。

 或いは少々不器用に設定されているからこそ、等身大の女の子が描かれているとも言えませんか。生存はハイスペックな人間しか出てこないので、読者としては憧憬の念を抱くことはあっても、親近感は湧いてこない。その点、三葉が送る日常は、もしかしたら私の知らないどこかで本当に起きているかもしれない、と思わせてくれるようなビリーヴァビリティに満ちています*9

 その一助となっているのが動画工房の仕事でしょう。動画工房と言えば「よく動くアニメーション」で有名ですが、この「三者三葉」でも女の子がよく動きますよね。ほら見て下さいよ、1話で葉子様が「いつも悪いわねっ」と返すシーンでの頭の振り具合。ここで私はみでしのワンシーンを思い出しました。真白が廊下を走って玄関先の白夜に飛び込むときにフローリングで少し横滑りするカットです*10。この2作品は「キャラを動かすけど、無駄な動きはさせない」という点で共通しています*11。”女の子”を描く上で必要なベクトルでしか動かさないけど、そのベクトル上ではガッツリ動かします。他にも例を挙げますと、双葉がパンを頬張るシーンの食パンのふわふわ感や、光に呼びかけられたときの照の表情変化、渾名を要求する葉子様の流れる清水の如き所作などなど。こういった些細な芝居を詰めることで女の子らしい情感が生まれ、引いては作品のビリーヴァビリティ向上に寄与するのです。

 これは絵コンテや監督の仕事ですかね。木村泰大氏は「三者三葉」が初監督で1話と3話の絵コンテを担当されています。頑張ってらっしゃるなーと思いますが、最初からアクセルを踏み過ぎな気もします。中盤終盤で息切れしなければ良いのですが。あー、でも3話の時点で作画カロリーを抑えるような工夫*12は随所に見られましたから、これは杞憂に終わるかもしれませんね。そうであって欲しいです。

 2話の絵コンテ演出を担当された谷田部透湖氏は新人ながら興味深い方です。7本の自主制作アニメを制作したかと思えば、いきなり商業作品で動画や原画マンをすっ飛ばして作監や絵コンテ演出を任されるという、稀有な経歴*13の持ち主。最新の自主制作アニメ「木の葉化石の夏」を見る限りでは、なるほど、「三者三葉」2話に通ずるポイントが色々と見えてきます。本人もtwitterでその旨を呟かれているので紹介しましょう。

 木村監督も初監督の割になかなか思い切ったことをしますね。絵コンテの個人趣味に任せたということは、恐らく原作とはズレている箇所もあることでしょう*14。原作読者に叩かれそうな要因は極力排除した方が無難だとは思いますが、どうなんでしょうね。特に芳文社きらら系作品のファンは、原作ブレイカーに敏感なイメージがありますから*15。ただ個人的にはそれほど違和感を覚えませんでしたね。今まで都市部の話しかなかったので唐突な田舎には少し面食らいましたが「恐らく親戚の家が田舎にあって、お盆か何かで遊びに行ったんだろうな」と脳内補完することで順応しました。今後の話で齟齬が生まれれば台無しですが、そこはシリーズ構成・脚本の子安秀明氏が適切に対応するのでは。彼は動画工房との関係も深いので、変な伝達ミスが発生するとも思えません。安心ですね。

 さて閑話休題。生存との比較に戻りましょう。

 生存はギャグからいい話に持っていくとき、台詞や地の文で全て説明してしまう傾向にあります。説明されないと分からない箇所もあるので仕方ないといえば仕方ないのですが、やはり言葉にされると軽くなってしまうのも事実。そのせいで興が削がれる場面も少なくありません。その点「三者三様」では言葉での表現がなるべく抑えられているように思えます。まあ裏を返せば、生存のキャラほど多くを察していないからこそ出来る芸当とも言えるのですが、それ以上に絵の説得力でカバーしている面もあります。例えば、光の気遣いに気付いた照の歩調の遅れとか、三葉のかしましい会話を見て園部が回想するまでの僅かな間とか。つまりこの作品では「登場人物が無言で何か考えている様子」を表現するために、ちゃんと尺を割いているのです。特に顕著なのは、西山芹奈が猫を貰ってくるシーンですね。照れ隠しで言葉を重ねていた芹菜が、猫に飛び掛かられると黙ってしまう。そして「光の加減で見えない写真が映るだけのカット」を挟むことで、ここでも芹菜が黙考するだけの時間を用意する。考えている内容は、それまでの流れと"見えない写真"というファクターから、視聴者が勝手に想像してよい。理想的なまでに押し付けがましさの無い作品です。だけど見せるべき部分はキッチリ見せてくれます。これが初監督の仕事とは思えないですね。なかなかどうして上手いこと調整されていて、驚嘆の念に堪えません。

 でも中にはもう一手、何かしらの指針を欲する人もいるかもしれません。そこで私は思うのです。生存ほど「副読本」として相応しい作品は無いと。特に葉山照は"腹黒"かつ"守りに入ると弱い"という性質が生存の紅葉知弦にそっくりなんで、個人的にはさくっと内面を想像できて楽しいキャラです。この記事でもやたらと照に言及しているのは、つまりそういうことですね(笑)実のところ照は芹菜の煽りを悪く思っていないのでは?今や猫好きという共通点も出来たことだし、何だかんだ言ってこれから仲良くなるのでは?文句言いつつも光のバナナニンニクジュースを飲み干す照は、やっぱり気遣い云々に気付く前からお姉ちゃん大好きっ娘なのでは?*16とか色々想像して楽しんでいます。とはいえ葉山照の腹黒さは単なる記号ではなく、かなり繊細にコントロールされていますので、他の要素が入り込むにつれて少しずつ薄れていく可能性は大です。そこまで手が回らないんですね。実際、3話の照は少し腹黒成分が弱いなと思いませんでしたか。私は若干気になりました*17。これが私の杞憂で終わるように、監督やシリーズ構成には頑張って頂きたいですね。

 最後に音楽や音響、美術について、さらっと触れて終わります。

(……本当はここでOPの作詞・作曲を担当されたおぐらあすか氏と動画工房の親和性について語る予定だったのですが、twitterで全く同じ論説を見かけたのでそれを引用するだけに留めます。)

 さて劇伴です。……とはいえ、うーん正直、特に印象に残る劇伴は無いですね。変に浮くよりはマシなのですが。良くも悪くも色が薄い。最近の動画工房では「干物妹!うまるちゃん」の劇伴が私の好みです。経験豊富な三澤康広が担当されているだけあってメロディがキャッチーで耳に残ります。あのモールス信号のような曲調にヤられた方は少なくないでしょう。「三者三葉」の方が使用する楽器は多岐に渡っていて、特に山Gのテーマや薗部さんが屋上に出るシーンのBGMは悪くないなーと思うのですが。効果音と声だけで演出するシーンも多いので、そのせいで劇伴の存在感が薄くなっているのかもしれませんね。でも同じような演出方針だった「みでし」では特に気にならなかったんですよ。劇伴もそこそこ印象に残っていまして。ふーむ、もう少し話数を踏まえて吟味する必要がありそうですね。

 美術に関しては言うことがないです。グッド。牧歌的な雰囲気が彩度の低い色彩設計とよく合っています。舞台は町中に設定されていながら、三葉の憩いの場――つまりキープレイス*18は木洩れ陽の揺れる梢の影。都会ではないけど田舎でもない。このミスマッチが独特な色彩設計を軸に纏まっています。不思議な感覚です。2話の唐突な田舎にさほど疑問を抱かなかったのも、この辺りに原因があるのかもしれません。もしや監督はそこまで計算した上で、新人絵コンテに自由にやらせたのでしょうか……。あくまでこれは私の憶測なのですが、もし事実だとしたら上手いこと掌の上で転がされたなーと思います。心地よいですね。本当は何も気にせず、茫洋とした気分で眺めるのが1番素敵なアニメ鑑賞だと思っているので*19。寧ろ上手に騙してほしい。今後の話数にも期待できそうです。

 と、こんな感じで「三者三葉」は個人的に大層楽しめそうな作品です。この記事を描く上で何度も見返したのですが、これが全く飽きないんですよ。私は「見る度に発見のある作品」は率先して視聴回数を増やす傾向にあるのですが、時折それとは関係なく「単純に好きだから」という理由で増やすこともあります*20。「三者三葉」は後者ですね。生存やみでしを鑑賞しなおす貴重な機会にもなりました。今後も気になる作品があって、尚且つ、気が向いたらブログに記事を上げる所存なので、暇な方は是非覗いていって下さい。そしてもし宜しければ、貴方の慧眼なる知見を授けて下さると幸いです。

 それでは、またいずれ。

*1:以下、生存と略称

*2:今更ですが、この記事は生存のネタバレも含みます。

*3:以下、この3人を三葉と呼びます

*4:この微妙なニュアンスを含めて一方通行”気味”と、奥歯に物が挟まったような言い方をしたのですが、伝わりましたか。

*5:同じ方向で突き詰めた挙句にジュブナイルサスペンスへ昇華させた「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」という作品もあります。文句無しの名作なので未読の方は是非。

*6:不意打ちという名のS行為も含めたり

*7:しかし無意識。生存的には会長ポジション。

*8:それでも上手いこと両立してしまう作品もあるにはあるのですが。

*9:ちなみに「私の知っているどこかで本当に起きているよなぁ」と納得してしまうのが"ゆゆ式"です。

*10:1話参照

*11:三者三葉」では、みでしのように中割で崩す

*12:引きのカットや平面的な構図が少々目立ちました

*13:それとも割りと珍しくない経歴だったりするんですか。私は初めて見ましたが。

*14:私は未読なので知りませんが

*15:ほらモザシコ警察とかさ……

*16:まあ無理に飲まされたようにも見えましたが

*17:いや本当に”若干”なんですけどね。

*18:こういう言い方するんですかね。しなさそう……。

*19:こんな考察分析まがいの記事ばかり上げて何を言う、と思われそうですが。

*20:両方を満たす作品もありますよ。最近ではガルパン der filmが該当します。